1月のメッセージ「主に望みをおく人は新たな力を得」

2016年1月3日

南房教会牧師  原田 史郎

                  

「主に望みをおく人は新たな力を得/鷲のように翼を張って上る/走っても弱ることなく、歩いても疲れない」        イザヤ書40章27~31節 

    

 先日、学校の先生たちの退職者数が発表されて、その数の多さに驚きました。授業や生徒指導に止まらず、多くの管理業務、親や地域への対応で疲れがたまり、心も弱ってしまったというのです。このようなことは、保育や医療、介護の現場でも多くの人たちが疲れを感じて離職していて、社会問題にもなっています。また、特定の業種だけでなく、今日の目まぐるしく変わり、また結果重視の管理社会の中で、多くの人々がストレスや疲れを感じているのです。

 イザヤ書40章27から31節を読んで意外に思うことは、ここに何回も、疲れや弱さを嘆く言葉が出てくることです。新共同訳聖書の言葉では、倦む、疲れる、勢いを失う、つまずく、弱るといった言葉が繰り返し出てきます。希望を失いあきらめて、やる気を失った民の姿があるのです。何も変わることがない、事態の好転は望めないという脱力感が、イスラエルの人々の心と社会を覆っていました。それはバビロンの捕囚生活が、四半世紀に及んでいたこともあるでしょう。

 しかしイザヤは、そういう人々に語りかけます。「主に望みをおく人は新たな力を得/鷲のように翼を張って上る/走っても弱ることなく、歩いても疲れない」 民の間にこのような失望感があるのは、どこから来るのでしょうか。それは「神が答えて下さらない」ということではないかと思います。祈っても、期待しても、何も起こらない。自分たちの現状を見るとき、そこに新しい希望の芽が見えてこないのです。そして、このようなとき、人は弱さを感じ疲れも覚えるのです。どんなに苦しくても、先に希望があれば、人は耐えられるからです。

 イザヤが「新たな力を得る」と語るとき、それは二つの内容があります。一つは、あきらめや自己嫌悪、過去の罪責感や劣等感の鎖から解放されることです。海原純子さんの「新・心のアプリ」(毎日新聞)を愛読しているのですが、昨年11月のコラムで、こんな話が紹介されていました。一頭の象が、その巨体を細い鎖でつながれていました。それを見た少年は、不思議に思います。ちょっと力を出せば鎖は簡単に切れて、逃げ出せるのに、象は逃げようとしません。父親が説明します。象は多分とても小さいころに連れてこられて鎖につながれた。そのとき、何度も鎖を引っ張って逃げようとしたのだろう。ところが鎖はびくともしない。象は次第にあきらめるようになり、体が大きくなっても「自分はダメ」と思いこんでいて鎖をこわそうとしなくなったのだろう、というのです。

 このくだりを読んで、わたしは、キリストが来られて、わたしたちが罪の縄目から解放されて、新しい人として新生させて下さったのに、依然として、古い人の枠内に止まり、古い過去と自分を嘆いてはいないだろうか、と思いました。「主に望みをおく人は」この古い自分をつないでいる鎖を外すことが出来るのです。新しい人とされ、新しい可能性に生きることが出来るのです。

「新たな力を得る」もうひとつのことは、神ご自身から力を頂くということです。この力は、「あなたがたの上に聖霊が降ると、あなたがたは力を受ける(使徒言行録18節)」という神の霊の導きにより、神の働きに与るものです。神は、ご自身のご計画の中で、わたしたちのために最も良いご計画と使命を用意しておられます。

昨年7月、金星探査機「あかつき」が金星周回軌道に投入されました。「あかつき」は、250億円の開発費をかけて、5年前に投入を試みましたが、エンジンの故障で失敗しました。しかし、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、その後、数万通りの軌道計算を重ねて、ついに「2015年12月7日午前8時51分から20分間」だけ、金星周回軌道に入れることを見付けました。金星を待ち伏せして、追い越される瞬間に小型エンジンを噴射してブレーキをかけ、軌道に入るのです。日本中が固唾を飲む中で、小型エンジンが噴射され、入ったことが確認されました。この小型エンジンは、本来、姿勢制御用の小さいものです。

このニュースを聞いて、大いに感激したことです。因みに、昨年は、この国の将来に憂うること、不安も多々ありましたが、日本ラグビーが南アフリカを破ったり、二人の日本人がノーベル賞を受賞したり、感激するニュースもあって幸いでした。これらのことに共通していることは、決してあきらめないで信じる道に「望みをおく」ということです。「主に望みをおく人は新たな力を得/鷲のように翼を張って上る」ことが出来るのです。

 わたしたちの持っている力は弱く、それで現状を変えるにはあまりにも小さいかも知れません。しかし、JAXAのスタッフが「あかつき」のために、あきらめないで数万通りの計算をして、金星の軌道には入れるように力を与えたように、イエス・キリストの父なる神も、わたしたちのために計画を持ち、「走っても弱ることなく、歩いても疲れない」力を与えてくださるのです。2016年を、希望をもって踏み出したいものです。

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