11月のメッセージ「たとえ一言でも、御言葉をください」   

2017年11月5日

南房教会牧師  原田 史郎

 

「あなたの御言葉は、わたしの道の光/わたしの歩みを照らす灯」 

(詩編119篇105節)

 

 朝起きた時、あなたは何を考えますか。ヒルティでしたか、何かの書物で読んだことがありますが、朝起きた時、心に思うことはその人の本音だそうです。まだ、人に会わず、環境に影響されず、眠りから覚めたとき、真っ先に心に思い浮かぶものこそ、理性や感情のフィルターを通さないその人自身の心なのでしょう。

 そして、この起きた後が大切だと思います。その日の行動を始めるに際し、今日何をするのか、何の目的や意味があるのか、天から与えられた務めがあるとすれば、それは何なのか、これらを朝、あまり時間の無い中で探り、思いを巡らし、決心しなければなりません。さもないと、歯磨き、洗顔、朝食といったルーティーンに入り、普段通りの時間の流れで何となく一日が始まり、一日が終わってしまうのです。勿論、学校や職場に行けば、その日の成すべき仕事やスケジュールがあり、それも務めではあるのですが、その積み上げの結果、人生は何であったのか、その結果が出るならばそれはそれで、偉大なる平凡な日々として、幸いなことであると思います。ところが、目的のない歩みを続けると、逆風や思いがけない突発事によって積み上げたものが崩れてしまい、すべて振り出しに戻らなければなりません。

しかし、ここに古代の信仰者たちから受け継がれてきた素晴らしい習慣があります。それは、朝起きたとき聖書の御言葉を読むということです。時間を取ってゆっくりと聖書を読み、瞑想し、祈ることが理想ですが、とかくその時間を取るのが難しかしく、静思の習慣が出来ていない人もいるでしょう。そういう人のために二つの方法をお勧めしたいと思います。

 一つは、聖書の御言葉を一章節ないしは一聖句を読むということです。その際、自分の勝手な聖句選びにならないように、年間の読む箇所が決まっている日本聖書協会の「聖書通読表」や、ベテスダ奉仕女母の家出版部の『日々の聖句』、また日本キリスト教団の『信徒の友』の巻末に短い講解がついている「日毎の糧」などから選ぶとよいでしょう。この他、月刊のデボーション誌や小冊子など、良いガイドブックがあります。

 もう一つのことは、これらの聖句を読んでも、読みっぱなしにしてしまえば、道の上に蒔かれた種のように、鳥が飛んで来ても持って行ってしまいます。一粒でも、地に落ちて芽を出すためには、御言葉を心に刻むことが必要です。そのためには、その聖句を暗誦し、その光から教えられたことをたとえ一つでも書き表すということです。市販のノートでもよいのですが、ビジネス手帳の日付け欄や小さいメモ帳、あるいはカードなどを使います。長続きする秘訣は、あまり本格的なものにしないで、簡便で、いつも手元に置いて見ることが出来るものがよいのです。わたしは、いろいろ試行錯誤しましたが、今はYシャツのポケットに入る位の、やや厚めのカードを自分で作っています。表にその日の聖句を英語聖書から、裏にその日の祈祷課題を1、2行に、そしてこれが大切なのですが、前日、神さまから与えられた恵みや祈りの答え、良かったことを探し出して短く書き込みます。すると、毎日、如何に多くの恵みや喜びを頂いているかがよく分かります。この感謝の思いがないと、聖書が無味乾燥なものとなり、静思の時が義務的になってしまうのです。

 また、聖書は、日本語でも新共同訳、新改訳、口語訳、文語訳、岩波訳、フランシスコ会訳、その他私訳の聖書が何冊もあります。英語聖書は、標準訳、現代語訳をはじめ無数の訳がありますし、ドイツ語に興味がある人は、ルター訳や現代語などが身近でしょう。因みにわたしは、少し専門的になりますが、すでに馴れ親しんでいる聖句もありますから、そういうときは敢えて当該聖句をギリシャ語やヘブル語で転写します。これはときどきにしかしませんが、その度にこれらの言葉の文法書をひっくり返して勉強し、頭の体操(ぼけ防止)にもなります。若い人であればこの作業を続けて、聖書の原語に強くなるのですが、わたしの場合は、一日経てば綺麗さっぱりと忘れてしまいますから、いつも万年初心者です。それでも日々新たなりと、挑戦を絶やしません。

 なお、朝の祈りも、同じ祈りで新鮮味がないと感じている人は、ジョン・ベイリーの名著『朝の祈り・夕べの祈り』、J・H・ジョエット『日々の祈り』(いずれも日本キリスト教団出版部)、E・M・バウンズ『祈りの力』(日本聖書協会)などをお勧めします。短い言葉で、祈りの霊性が一段と格調高く引き上げられるでしょう。

 詩編の詩人は「あなたの御言葉は、わたしの道の光/わたしの歩みを照らす灯」と詠いました。毎朝、たとえ一言でも、尽きざる命の泉から、魂を潤す命の水を頂きたいものです。

もどる